今年は全日本合唱コンクールの自由曲のためにいくつかの団体・学校に作品を書きました。
どの団体もひと夏のドラマを凝縮したような素晴らしい演奏を披露してくださり、作曲者としてこの上ない喜びを感じることができました。
全国大会に進まれた3校に書いた曲について書きたいと思います。
会津高等学校合唱団委嘱作品
混声合唱とピアノのための「大地の踊り」(詩:ピエール・ルヴェルディ/訳:佐々木洋)
ルヴェルディはフランス生まれの詩人で、ココ・シャネルやパブロ・ピカソと交流があったとされています。とてつもない芸術環境で育った彼は、カトリックに帰依し精神性を高めます。実際、帰依する前と後では作品の性質が明らかに変化しており、ロマン的だった前期にくらべ、後期はよりダイレクトに内的感情を表現しています。今回付曲した「大地の踊り」は後期の作品になります。
大戦中に書かれたこの詩はスピード感ある言葉が連なり、どこか走馬灯を連想させるようです。詩は「虚無の 自由」という言葉で締めくくられているなど、二面性(希求/絶望)も感じられます。
作曲している時はいつも語感を感じて書きますが、この詩と向き合えば向き合うほど、言葉のひとつひとつよりもルヴェルディの「大きな魂」を感じ、それを表現することに注力していたように思います。晩年の彼は感情そのもので詩を書いていたのでしょう。私も論理ではなく感情で向き合う必要がありました。
星野高等学校音楽部委嘱作品
女声合唱とピアノのための「世紀末病」(詩:星野徹)
星野徹作品に付曲するのは「Quo Vadis?」(あい混声合唱団委嘱)以来2曲目です。
星野作品はバランスの取られた硬質な日本語群が美しく、いつも作曲意欲を刺激されます。
「世紀末病」はコミカルな口調の裏側で、暗黒の香りがただよう不思議な作品です。その相容れぬ2つの物事が、お互いを引っ張り合い緊張度を高めていきます。聴いてくださった人から「主観と客観が交互に現れる作品」と言われとても納得しました。
「心臓」という言葉が何回も登場しますが、この曲のリズムモチーフはそこからインスピレーションを得ました。鼓動という原始的で生理的なものは、なにより人の心に直接的に訴えかけるものだと思います。
松山女子高等学校音楽部委嘱作品
女声合唱のためのサウンドスケープ「風のシンフォニー」(詩:山口 眞理子)
サウンドスケープとは「音風景」と訳され、普段私達が見ている世界には音が欠かせないといった考え方です。
多声部によるざわめき・ゆらぎ、それらが繰り返され増幅していくことで、「音による映像」が見えるような世界を目指しました。
今回「風のシンフォニー」に付曲するにあたって、詩を分解し、3つの楽章に分けさせていただきました。急・緩・急の一般的な構成ですが、実は2楽章の「緩」の部分が詩の締めくくりの部分です。風の中に消えていく何か…。官能的で美しい言葉が綴られています。
合唱という呼吸を伴う芸術は、直喩的な風の描写がなくとも、複雑で曖昧な「風(わたし)」が自然と表出されると思います。
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